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父の詩集 6月13日

ライフ【産経抄

父の詩集 6月13日
2014.6.13 03:07 [産経抄

詩人の池下和彦さんが、私家版『母の詩集』を出したのは、平成9年だった。池下さんは、76歳で認知症を発症した母親を、ヘルパーの力を借りながら父親と5年半介護して、看取(みと)った。百か日の供養の気持ちを込めて発行した詩集は、以前コラムで紹介したことがある。

▼きのうの「朝の詩」に掲載された『記憶』という作品も、母を詠(うた)っている。81歳の作者は、節くれ立った母の手とそっくりになった、自分の手に驚いていた。父と母、どちらが詩の題材になっているのか。今年に入ってからの「朝の詩」を振り返ってみると、数で倍以上、母の圧勝である。

▼ところが「父の日」を前にして、池下さんから『父の詩集』(コールサック社)が送られてきた。あとがきに「世に母の詩集は山ほどあります。くらべて父の詩集の景色は、さびしいといえるかもしれません」とある。

▼先立った妻に、朝な夕な線香を手向(たむ)けていた。そんな父との暮らしを描いた、日記のような作品が並ぶ。もちろん母も、ここかしこに登場する。実は、11年前に亡くなった父親について思うような詩がなかなか書けず、最近になってようやくまとまったという。

▼池下さんは、囲碁が得意だった父に何度も習おうとした。「父は困った顔で『簡単にはおしえられないことがわかった』とひとこと/ついに囲碁の『い』もわからなかったけれど/父におそわったひとことの真理」(『真理』)。

▼小欄の父も囲碁が好きだった。ある日、石を盤面の真ん中から斜めにつながるように置いていく、不思議な打ち方を始めた。5つ並んだところで、「勝った」と叫んだ。五目並べをしているつもりらしい。認知症を確信した瞬間だった。その父が亡くなって、もう1年たつ。